中小企業診断士の一次試験科目である経済学では、「需要の価格弾力性」について、計算問題やグラフを用いた問題が出題されます。また、企業経営理論ににも、「需要の交差弾力性」についての正誤問題が出題されます。
「需要の価格弾力性・交差弾力性」については、計算方法や考え方が混同しやすいため、内容を正しく理解した上で本番でも冷静に計算・正誤の判断ができるように準備することが大切です。
この記事では、「需要の価格弾力性・交差弾力性」について、基本の考え方から計算問題・グラフの読み取りなど、中小企業診断士試験で必要となる知識に絞って解説しています。
この分野は、考え方の基本をしっかりと理解できていれば得点できる内容です。
診断士試験で問われやすい重点に絞って詳しく解説していますので、本番で得点源にできるように改めて重要論点を整理しておきましょう。
- 前提知識となる「需要曲線」について
- 「需要の価格弾力性」の基本的な考え方と計算式
- 需要の価格弾力性と需要曲線の関係
- 「需要の交差弾力性」の基本的な考え方と計算式
- 「代替財」と「補完財」について
- 需要の価格弾力性・交差弾力性に関する過去問と解説
需要曲線
まずはじめに、「需要曲線」について解説します。
需要の価格弾力性の前提知識となりますので、しっかり理解しておきましょう。
需要曲線とは、ある財の価格と消費量の関係を表す曲線です。
需要曲線を図示するグラフでは、縦軸に「価格(P)」を、横軸に「財の消費量(X)」を取ります。
同じお金を使う消費者にとっては、財の価格が下がったときには、その財の消費量が増やすことができますね。
それゆえに、需要曲線は右下がりの形状になっています。
例えば、同じ給料を毎月もらっているサラリーマンがいたとします。このサラリーマンにとっては、同じものを買うときに、その価格が安ければたくさん買うことができます。
このように需要曲線とは、ある財の価格と、その価格のときの消費量との関係性を示す曲線であり、その形状は右下がりになることを押さえておきましょう。
需要曲線:ある財の価格と、その価格における財の消費量との関係を示す曲線
需要の価格弾力性
次に、「需要の価格弾力性」について解説します。
「需要の価格弾力性」とは
需要の価格弾力性とは、ある財の価格が1%変化したときに、需要量が何%変化するかを表します。
例えば、1杯500円のビールが販売されているとします。
その時、ビール1杯の値段が400円に下がったとき、消費者がどれくらいビールを多く注文するようになるかを示すのが「需要の価格弾力性」です。
需要の価格弾力性:ある財の価格が1%変化したときに、需要量が何%変化するか
需要の価格弾力性の計算
需要の価格弾力性を求める計算式は以下の通りです。
式だけ見るとよくわからないので、具体例を見てみましょう。
ビールの価格が500円から400円に安くなった時、消費量が10杯から13杯に増えたとします。
価格について
・変化量:変化後の価格(400)と変化前の価格(500)の差である「100」
・変化率:変化量(100)を変化前の価格(500)で割った「0.2(20%)」
消費量について
・変化量:変化後の消費量(13)と変化前の消費量(10)の差である「3」
・変化率:変化量(3)を変化前の価格(10)で割った「0.3(30%)」
需要の価格弾力性は、「消費量の変化率/価格の変化率」で求めることができるため、0.3 / -0.2= -1.5となります。
需要の価格弾力性を計算するときに重要なのは、「消費量の変化率/価格の変化率」という算出式を押さえておくことです。変化量や変化数ではなく、変化率で算出することに注意しましょう。
需要の価格弾力性(ε)=消費量の変化率 / 価格の変化率
「需要の価格弾力性」と「需要曲線」の関係性
次に、需要の価格弾力性と需要曲線の関係性を見てみます。
需要曲線がどのような形状であるかによって、需要の価格弾力性の大きさが変化します。
ここでは、傾きの異なる2つの需要曲線を見比べてみます。
どちらも価格が6から4に、2マス下がっている点は同じですが、それぞれ消費量の変化に違いがあります。
価格が2マス下がった時、「傾きが急な需要曲線」では、消費量は1増加しています。一方、「傾きが緩やかな需要曲線」では、消費量が3増加しています。
このように、同じ価格の変化量でも消費量の変化が大きくなるため、傾きが緩やかな需要曲線の方が需要の価格弾力性が大きいということになります。
この特性はそのまま覚えてしまいましょう。経済学の選択問題で頻出の内容です!
傾きが緩やかな需要曲線の方が、需要の価格弾力性が大きい。
需要曲線上で価格弾力性が異なる
ここでは、同じ需要曲線上でも、位置によって需要の価格弾力性が異なることを解説します。
需要の価格弾力性は、「価格が1%変化したときに、需要量が何%変化するか」を示すことをお話ししました。
そして、需要の価格弾力性は「消費量の変化率/価格の変化率」で算出できます。
これらを押さえたうえで、以下の図を見てみます。
この図では、価格が10,000円の状態と3,000円の状態から、それぞれ価格が1%低下した際の需要曲線を示しています。
価格の変化率が1%のとき
・価格が10,000円の状態から1%低下すると、10,000×0.01=100円分低下
・価格が3,000円の状態から1%低下すると、3,000×0.01=30円分低下
このように、同じ価格の変化率(1%)でも、元の価格の大きさによって価格の変化額が異なるわけです。
そして、下がった価格が100円の時と30円の時を比べると、当然100円安くなった時の方が消費量が多くなります。
これらを整理して需要の価格弾力性を算出してみます。
需要の価格弾力性(消費量の変化率/価格の変化率)
・元が10,000円の時:0.2 (120-100)/100 / 0.01 = 20
・元が3,000円の時:0.066… (150-140)/150 / 0.01 = 6.66…
つまり、同一の需要曲線上かつ価格の変化率が同じでも、元の価格が大きい左上に位置する点の方が、需要の価格弾力性が大きくなります。
傾同一の需要曲線でも、左上に位置する点の方が需要の価格弾力性が大きい。
需要の交差弾力性
ここまでは、需要の価格弾力性についての考え方について解説しました。
次に、需要の交差弾力性について解説します。
「需要の交差弾力性」とは
ここまで解説してきた需要の価格弾力性では、1つの財についての価格と需要量について考えてきました。
一方、需要の交差弾力性では、2つの財の価格と需要量の変化について考えていきます。
ある一方の財の価格が変化したときに、もう一方の財の需要量がどう変化するかを表すのが、需要の交差弾力性です。
需要の交差弾力性:一方の財の価格変化に対する、もう一方の財の需要変化を表す。
需要の交差弾力性の計算
需要の交差弾力性は、以下の計算式で求めることができます。
中小企業診断士試験で出題される交差弾力性に関する問題は、この計算式だけ押さえておけばほとんど解けます。
分母に「価格の変化率」を、分子に「需要量の変化率」を取ることは、需要の価格弾力性の計算式と変わりません。
変化しているのは、2財(A財orB財)の関係性を知るために、両者の変化率を計算に用いている点です。
交差弾力性に関しては、どちらの財の価格が減少したのかや、符号(マイナス)を間違えないように、計算式に当てはめていきましょう。
需要の交差弾力性=B財の需要量の変化率 / A財の価格の変化率
「代替材」と「補完財」
需要の交差弾力性を求めることで、その2財の関係を分析することができます。
結論としては、2財が「代替関係」にあるのか「補完関係」にあるのかによって、交差弾力性の符号が異なってきます。
代替財
まず初めに、2財が「代替財」である場合について解説します。
代替財とは、A財がB財の代わりになり、どちらを選択してもいいような2財の組み合わせを指します。
例えば、ビールとハイボールを例に考えてみましょう。
種類を問わずお酒が好きな人なら、ビールもハイボールも飲みたいものです。そんな時、居酒屋でビールとハイボールの選択肢が与えられたとき、ビールだけが値上げしていたらハイボールを頼む人が多くなるでしょう。
このように、代替関係にある2財であれば、一方の財の価格が上昇すると、もう一方の財の需要量が増加します。
この図では、A財の価格の上昇(分母がプラス)したことで、代わりになるB財が割安になり需要量が増加(分子がプラス)になっています。
逆に、A財の価格が下落(分母がマイナス)したときは、B財の価格が割高になり需要量は減少(分子がマイナス)になります。
このように、2財の関係が代替財であるときには、交差弾力性は必ず「正」になります。
2財が代替財であるときには、交差弾力性は「正」の値をとる。
補完財
次に、2財が「補完財」である場合について解説します。
補完財とは、2つの財が両方揃って初めて機能するような組み合わせを指します。
例えば、ウイスキーと炭酸水を例に考えてみましょう。
ハイボールを作るには、ウイスキーを炭酸水で割る必要がありますよね。できればウイスキーをストレートでは飲みたくないですし、炭酸水もそのまま飲みたくはありません。ハイボールが飲みたい人にとっては、ウイスキーの値段が上がっていたらハイボールを飲む気にならず、結果として炭酸水も売れなくなるでしょう。
このように、補完関係にある2財であれば、一方の財の価格が上昇すると、もう一方の財の需要量が減少します。
この図では、A財の価格の上昇(分母がプラス)したことでA財が売れなくなり、セットで用いられるB財の需要量も減少(分子がマイナス)しています。
逆に、A財の価格が下落(分母がマイナス)したときはA財が売れるようになり、B財の需要量は増加(分子がプラス)になります。
このように、2財の関係が補完であるときには、交差弾力性は必ず「負」になります。
2財が補完財であるときには、交差弾力性は「負」の値をとる。
需要の交差弾力性については、算出する計算式(B財の需要量の変化率/A財の価格の変化率)と、代替財と補完財の特性(正もしくは負)を押さえておけば、正誤の判断には十分対応できます。
過去問と解説
実際に、需要の価格弾力性・交差弾力性について出題された過去問を紹介します。
令和3年度 第20問
下図には、Q=-P+10で表される需要曲線が描かれている(Qは需要量、Pは価格)。点Aおよび点Bにおける需要の価格弾力性(絶対値)に関する記述とし、最も適切なものを下記の解答群から選べ。【引用】中小企業診断士試験問題 (j-smeca.jp)
(解答群)
ア 需要の価格弾力性は、点Aのとき1であり、点Bのとき1である。
イ 需要の価格弾力性は、点Aのとき1であり、点Bのとき4である。
ウ 需要の価格弾力性は、点Aのとき4であり、点Bのとき1である。
エ 需要の価格弾力性は、点Aのとき4であり、点Bのとき4である。
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解答解説
需要の価格弾力性を求める算出式(需要量の変化率/価格の変化率)に、数値を当てはめていきましょう。
点Aのとき:2 (2-0)/0 / 0.5 (10-5)/10 = 4
点Bのとき:5 (5-0)/0 / 5 (10-5)/0 = 1
よって、点Aのとき4、点Bのとき1の組み合わせである「ウ」が正解です。
この問題は、同じ需要曲線上でも左上の方が価格弾力性が大きいことを知っていると簡単に解くことができます。
平成30年度 経済学 第12問
下図でDAとDBは、それぞれ商品Aと商品Bの需要曲線である。このとき、商品Aと商品Bの需要の価格弾力性に関する記述として、最も適切なものの組み合わせを下記の解答群から選べ。【引用】中小企業診断士試験問題 (j-smeca.jp)
a 価格がP0から下がると、商品Aの需要の価格弾力性は大きくなる。
b 価格がP0から上がると、商品Bの需要の価格弾力性は大きくなる。
c 点Eでは、商品Aの需要の価格弾力性は商品Bの需要の価格弾力性よりも大きい。
d 点Eでは、商品Aの需要の価格弾力性は商品Bの需要の価格弾力性よりも小さい。
〔解答群〕
ア aとc
イ aとd
ウ bとc
エ bとd
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解答解説
a:適切ではない
価格がP0から下がると、商品Aの需要の価格弾力性は大きくなる。
➤➤価格がP0から下がると、商品Aの需要の価格弾力性は小さくなります。これは、同じ需要曲線上でも元の価格が小さいほうが価格の変化額が小さくなり、需要量も小さくなるためです。左上の点の方が需要の価格弾力性が大きいことの反対を意味しています。
b:適切である
価格がP0から上がると、商品Bの需要の価格弾力性は大きくなる。
➤➤価格が上がると、需要の価格弾力性は大きくなるため正解です。
c:適切ではない
点Eでは、商品Aの需要の価格弾力性は商品Bの需要の価格弾力性よりも大きい。
➤➤商品Aと商品Bの需要曲線を比較すると、商品Bの需要曲線の方が傾きが緩やかになっています。そして、傾きが緩やかな需要曲線の方が、需要の価格弾力性は大きくなります。よって、両曲線の交点において、商品Aの方が需要の価格弾力性が大きいという記述は間違いです。
d:適切である
点Eでは、商品Aの需要の価格弾力性は商品Bの需要の価格弾力性よりも小さい。
➤➤ウでも解説した通り、商品Bの需要曲線の方が傾きが緩やかなため、需要の価格弾力性が大きく正解です。
よって、「b」と「d」の組み合わせである「エ」が正解です。
令和元年度 企業経営理論 第31問
次の文章を読んで、下記の設問に答えよ。
原油や原材料価格の低下、あるいは革新的技術の普及は、製造ならびに製品提供にかかる変動費を減少させるため、販売価格の引き下げが検討されるが、価格を下げることが需要の拡大につながらないケースもある。企業は、①需要の価格弾力性や交差弾力性を確認したり、②競合他社の動向や顧客の需要を分析、考慮したりして、価格を決定する。
文中の下線部①に関する記述として、最も適切なものはどれか。【引用】中小企業診断士試験問題 (j-smeca.jp)
ア 企業は、製品Aの価格変化が製品Bの販売量にもたらす影響について、交差弾力性の値を算出し確認する。具体的には、製品Aの価格の変化率を、製品Bの需要量の変化率で割った値を用いて判断する。
イ 牛肉の価格の変化が豚肉や鶏肉の需要量に、またコーヒー豆の価格の変化がお茶や紅茶の需要量に影響することが予想される。これらのケースにおける交差弾力性は負の値になる。
ウ 消費者が品質を判断しやすい製品の場合には、威光価格が有効に働くため、価格を下げることが需要の拡大につながるとは限らない。
エ 利用者層や使用目的が異なるため、軽自動車の価格の変化は、高級スポーツカーの需要量には影響しないことが予想される。こうしたケースの交差弾力性の値は、ゼロに近い。
↓答えを決めてからスクロールして解答をチェック!↓
解答解説
ア:適切ではない
企業は、製品Aの価格変化が製品Bの販売量にもたらす影響について、交差弾力性の値を算出し確認する。具体的には、製品Aの価格の変化率を、製品Bの需要量の変化率で割った値を用いて判断する。
➤➤交差弾力性は、「製品Bの需要量の変化率 / 製品Aの価格の変化率」で算出します。この選択肢では分子と分母が逆になっているため間違いです。
イ:適切ではない
牛肉の価格の変化が豚肉や鶏肉の需要量に、またコーヒー豆の価格の変化がお茶や紅茶の需要量に影響することが予想される。これらのケースにおける交差弾力性は負の値になる。
➤➤牛肉・豚肉・鶏肉の組み合わせや、コーヒー・お茶・紅茶の組み合わせはどちらも「代替財」です。代替財は、A財の価格が低下するとき、B財の需要量はA財に移ることで減少します。よって、交差弾力性の算出式「製品Bの需要量の変化率 / 製品Aの価格の変化率」において、分子・分母がともにマイナスとなり、交差弾力性は正になります。
ウ:適切ではない
消費者が品質を判断しやすい製品の場合には、威光価格が有効に働くため、価格を下げることが需要の拡大につながるとは限らない。
➤➤威光価格とは、いわゆるブランド価格であり、高級ブランドなどに実際の品質以上の価格をつけて販売することです。もし消費者が品質を判断しやすい製品であれば、威光価格はその効果を発揮しにくくなります。
エ:適切である
利用者層や使用目的が異なるため、軽自動車の価格の変化は、高級スポーツカーの需要量には影響しないことが予想される。こうしたケースの交差弾力性の値は、ゼロに近い。
➤➤交差弾力性は、「B財の需要量の変化率 / A財の価格の変化率」で算出できます。軽自動車とスポーツカーは、それぞれ買い求める客層が異なるため、軽自動車の価格が安くなっても、スポーツカーを買おうとしている人が軽自動車を買おうとは考えないでしょう。この時、分子である「B財の需要量の変化率」が小さくなることで、交差弾力性の値もゼロに近くなるため正解です。
まとめ
当記事を最後までお読みいただき、ありがとうございます。
今回は、中小企業診断士試験の経済学・経済政策や企業経営理論に出題される「需要の価格弾力性・交差弾力性」について、考え方の基本からグラフの読み取り・計算問題まで、試験攻略に必要な知識について解説しました。
「需要の価格弾力性・交差弾力性」についての出題は、一次試験で頻出の重要な内容ですが、数値を当てはめた計算や両財の関係性(代替財もしくは補完財)など、問われる論点はほぼ同じであり、基本的な考え方さえ理解しておけば十分に得点源とできます。
この記事を復習用として活用していただき、学習を進める中での参考となれば幸いです。
他にも、中小企業診断士試験を最短で合格するために役立つ記事を発信していますので、是非チェックしてみてください。
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