中小企業診断士の一次試験科目である経済学には、「需要曲線と供給曲線のシフト」が頻繁に問われます。
需要曲線・供給曲線のシフトについての問題は、その理屈を理解できれば、決して難しい問題ではありません。
しかし、曲線がシフトする理由によって、需要曲線と供給曲線のどちらがシフトするのか、右と左のどちらにシフトするのかが紛らわしく、苦戦している方も多いのではないでしょうか。
この記事では、ミクロ経済学における「市場均衡」から、「需要曲線と供給曲線のシフト」について、その内容と覚え方について解説します。
需要曲線・供給曲線について理解した上で、コツさえ掴んでしまえば、中小企業診断士試験では十分に得点源にできる内容です。
経済学ではかなりの頻度で出題される重要論点ですので、一緒に得意になっておきましょう。
- そもそも「需要曲線」と「供給曲線」とは
- ミクロ経済学における「市場均衡」とは
- 需要曲線・供給曲線がシフトする理由
- 診断士試験で正誤を簡単に判断するポイント
- 需要曲線・供給曲線のシフトに関する過去問と解説
「需要曲線」と「供給曲線」
まずはじめに、そもそも「需要曲線」と「供給曲線」とは何かを解説します。
それぞれが何を示す曲線なのかを知っていなければ、曲線がシフトする理由や、どのようにシフトするのかを判断することができませんので、基本からしっかりと学習しておきましょう。
需要曲線
需要曲線は、「需要者(買い手)」側の視点から市場を見るパターンです。
需要曲線では、縦軸に「価格」を、横軸に「消費量」を取ります。
この市場には、ある1つの財しか存在しておらず、消費者(買い手)は手に入れたお金使ってこの財を消費することで、満足感を得ていると考えます。
このとき、買い手にとっては、その財の価格が安いほど多くの財を消費したいと考えます。
持っているすべてのお金を消費に使わず、一部を貯蓄に回している消費者でも、価格が安ければ同じ貯蓄を残しながらより多くの消費を行うことができます。
このように需要曲線は、「財の価格」と「その価格での消費者にとって最適な消費量」を結びつけた曲線であり、一般的な需要曲線の形状は右下がりになります。
買い手にとっては「価格が安いほどたくさん買う」というシンプルな考え方を表しているのが需要曲線です。
需要曲線:ある財の価格と、その価格における買い手にとって最適な消費量との関係を示す曲線。
供給曲線
供給曲線は、「供給者(売り手)」側の視点から市場を見るパターンです。
供給曲線では、縦軸に「価格」を、横軸に「供給量(生産量)」を取ります。
ある財を市場に提供している企業からすれば、同じ財が高く売れるほどより多く生産・販売を行いたいと考えます。
生産するために必要となる原材料・人件費などのコストが同じなら、販売価格が高いほど利益を残すことができます。
このように供給曲線は、「財の価格」と「その価格での供給者にとって最適な供給量」を結びつけた曲線であり、一般的な供給曲線の形状は右上がりになります。
売り手にとっては「販売価格が高いほど利益が残るからたくさん作る」という考え方を表しているのが供給曲線です。
供給曲線:ある財の価格と、その価格における売り手にとって最適な供給量との関係を示す曲線。
市場均衡
経済学における「市場均衡」とは、需要と供給が等しくなる価格が成立している状態をいいます。
そして、需要と供給が等しくなる価格とは、需要曲線と供給曲線の交点が該当します。
この図でも示した通り、需要曲線と供給曲線の交点を「市場均衡点」と呼び、この市場均衡点における価格と消費量・供給量のことを「市場均衡価格」と「均衡取引量」と呼びます。
このように考えると、需要曲線と供給曲線の交点以外の価格で取引が行われている状態は、市場が均衡していないということになります。(市場不均衡)
企業(売り手)が設定した財の価格が高すぎると…
その価格で財を消費してくれる買い手がおらず、需要が足りずに売れ残ってしまう。(超過供給)
企業(売り手)が設定した財の価格が安すぎると…
財を買いたい買い手が多くなり、供給量が足りずに企業が損をしてしまう。(超過需要)
このように、買い手・売り手の双方が納得できる唯一の価格が、需要曲線と供給曲線の交点であり、その価格が成立していることが市場均衡の条件になるのです。
市場均衡:需要と供給が等しくなる価格が成立している状態。
需要曲線のシフト
需要曲線は、財の価格に対して、消費者(買い手)がどれだけの消費を行うのが最適かを示す曲線です。
そのため、使えるお金の量・他の財の価格が変化することで、財の価格が同じでも消費量が変化することがあります。
需要曲線の右方向へのシフト
まずは、需要曲線が右方向へシフトするパターンについて見てみましょう。
需要曲線が右シフトするのは、「消費者(買い手)にとってその財をより多く消費することが望ましい時」です。
需要曲線が右方向にシフトする要因
・所得が増えて、自由に使えるお金が増えた。
・代わりとなる財(代替財)の価格が高くなった。
例えば、所得が増加することで自由に使えるお金が増えれば、その分多くの消費を行えるようになります。
また、その財に代わる財(代替財)の価格が上昇すると、X財が相対的に安くなるため、代替財から需要が移動してきます。
需要曲線の右シフト:消費者(買い手)にとって、その財をより多く消費することが望ましい時。
需要曲線の左方向へのシフト
次に、需要曲線が左方向へシフトするパターンについて見てみます。
需要曲線が左シフトするのは、「消費者(買い手)にとってその財の消費を減らした方が良い時」です。
需要曲線が左方向にシフトする要因
・所得が減って、自由に使えるお金が減少した。
・代わりとなる財(代替財)の価格が安くなった。
右シフトしたときとは逆のパターンですね。
消費者(買い手)が自由に使えるお金が減少すれば、価格は同じでの消費できる量は少なくなります。
また、その財に代わる財(代替財)の価格が安くなれば、代替財を買った方がお得なので需要が移っていきます。
需要曲線の左シフト:消費者(買い手)にとって、その財の消費を減らした方が良い時。
供給曲線のシフト
次に、供給曲線がシフトする要因を見てみます。
供給曲線は、市場で受け入れられる価格と最適な生産量を結びつけた曲線です。
そのため、生産に必要なコストが変化すると、適切な生産量が変化することがあります。
供給曲線の右方向へのシフト
まずは、供給曲線が右方向へシフトするパターンを見てみます。
需要曲線が右シフトするのは、「供給者(売り手)にとって利益が残りやすくなった時」です。
供給曲線が右方向にシフトする要因
・生産技術が向上し、同じ財をより効率的に生産できるようになった。
・原材料の価格が低下し、安い原価で財を作れるようになった。
例えば、作業者のスキルが高まって生産技術が向上すれば、より効率的に生産を行いことができるようになります。
また、原材料の価格が安くなれば、低コストで同じ財を生産できるようになります。
このような場合には、売り手にとっては、販売価格が安くなったとしても変化前と同等の利益を生み出せるわけです。
供給曲線の右シフト:供給者(売り手)にとって利益が残りやすくなった時。
供給曲線の左方向へのシフト
次に、供給曲線が左方向にシフトするパターンです。
需要曲線が左シフトするのは、「供給者(売り手)にとって利益が残りにくくなった時」です。
供給曲線が左方向にシフトする要因
・優秀な生産者がいなくなり、生産効率が落ちた
・原材料の価格が高騰し、原価が高くなった
供給者(売り手)にとっては、同じ財を生産するために、より多くのコストがかかるような状況になってしまうと、同じ価格で販売するとコスト上昇分の利益を得られなくなってしまいます。
このような場合には、売り手は生産を積極的に行わなくなるわけです。
供給曲線の左シフト:供給者(売り手)にとって利益が残りにくくなった時。
均衡価格の変化
需要曲線・供給曲線がシフトすると、その交点の位置が変化するため、市場均衡価格も変化します。
あらゆる曲線のシフトについて、市場均衡価格がどのように変化するのかを押さえておく必要があります。
需要曲線がシフトしたときの市場均衡価格
供給曲線が一般的な右上がりの形状であるとき、需要曲線がシフトすると市場均衡価格がどう変化するかを見てみます。
まず、需要曲線が右シフトしたときは以下の通りです。
赤い点線が変化前の需要曲線で、赤い実線が変化後の需要曲線です。
需要曲線が右シフトすることで、供給曲線との接点がより高い位置に移動しています。
需要曲線が右シフトするときは、消費者(買い手)にとってより多くの消費を行うことが望ましい時でした。市場均衡価格が高くなっても、消費者は受け入れられるだけの余裕が生まれたと考えましょう。
このように、需要曲線が右シフトしたとき、市場均衡価格は上昇します。
需要曲線が右シフトしたとき、市場均衡価格が上昇する。
次に、需要曲線が左シフトした場合を見てみます。
需要曲線が左シフトすることで、供給曲線との接点がより低い位置に移動しています。
需要曲線が左シフトするときは、消費者(買い手)にとってその財の消費を減らした方が良い時です。そのため、価格が下がることでより元々の消費量が維持できるように調整されると考えましょう。
このように、需要曲線が左シフトしたとき、市場均衡価格は下落します。
需要曲線が左シフトしたとき、市場均衡価格が下落する。
供給曲線がシフトしたときの市場均衡価格
次に、供給曲線がシフトすると市場均衡価格がどう変化するかを見てみましょう。
まずは、供給曲線が右シフトするパターンです。
赤い点線が変化前の需要曲線で、赤い実線が変化後の需要曲線です。
需要曲線が右シフトすることで、供給曲線との接点がより高い位置に移動しています。
需要曲線が右シフトするときは、消費者(買い手)にとってより多くの消費を行うことが望ましい時でした。市場均衡価格が高くなっても、消費者は受け入れられるだけの余裕が生まれたと考えましょう。
このように、需要曲線が右シフトしたとき、市場均衡価格は上昇します。
需要曲線が右シフトしたとき、市場均衡価格が上昇する。
次に、需要曲線が左シフトした場合を見てみます。
需要曲線が左シフトすることで、供給曲線との接点がより低い位置に移動しています。
需要曲線が左シフトするときは、消費者(買い手)にとってその財の消費を減らした方が良い時です。そのため、価格が下がることでより元々の消費量が維持できるように調整されると考えましょう。
このように、需要曲線が左シフトしたとき、市場均衡価格は下落します。
需要曲線が左シフトしたとき、市場均衡価格が下落する。
シフトする曲線・方向の覚え方
ここまで、需要曲線・供給曲線がシフトする理由と、シフト後の市場均衡価格の変化について解説しました。
中小企業診断士試験では、それぞれの要因で需要曲線・供給曲線がどのように変化し、結果として市場均衡価格が上昇するのか、下落するのかを判断できる必要があります。
ここでは、中小企業診断士試験の本番で混合せずに正答できる覚え方のコツをお話しします。
需要曲線・供給曲線のどちらがシフトするのか
まずは、市場で行った要因により、需要曲線と供給曲線のどちらがシフトするのかを判断します。
ここの判断に関しては、消費者(買い手)と供給者(売り手)のどちらに影響を与える要因かを判断するだけでOKです。
所得の変化・代替財の価格変化 消費者(買い手)への影響
技術革新・原価の変動 供給者(売り手)への影響
市場で発生する要因は、必ず消費者(買い手)か供給者(売り手)のどちらかに影響を与えるものです。
それぞれの要因がどちらに影響を与えるかを判断できれば、需要曲線・供給曲線のどちらがシフトするのかを見分けることができます。
右方向・左方向のどちらにシフトするのか
需要曲線・供給曲線のどちらがシフトするのかを判断できたら、次はその曲線が右方向・左方向のどちらにシフトするのかを検討します。
ここでは、その要因が当事者にとってポジティブなものなら右方向へ、ネガティブなものなら左方向にシフトすると考えましょう。
所得の増加、生産技術の向上
所得の減少、原材料価格の高騰
市場で発生する要因は、当事者にとって都合の良いものと悪いものに分類できます。
このとき、当事者にとって都合が良いものなら右シフト、都合の悪いものなら左シフトと覚えてしまいましょう。
市場均衡価格はどう変化するのか
最後に、需要曲線・供給曲線が各方向にシフトしたとき、市場均衡価格がどう変化するかを判断します。
ここまで正しく判断できれば、あとは実際に簡易的なグラフを書いてみることをオススメします。
一般的に、需要曲線は右下がり、供給曲線は右上がりの形状を取り、その場合の市場均衡価格は以下のように変化します。
需要曲線が右下がり・供給曲線が右上がりのとき
・需要曲線の右シフト
・需要曲線の左シフト
・供給曲線の右シフト
・供給曲線の左シフト
しかし、中小企業診断士試験では、特殊な形状をした需要曲線・供給曲線のパターンが出題されることがあるため注意しましょう。
例えば、令和3年度経済学の第14問では、需要曲線・供給曲線が垂直な場合の変化が出題されています。
左図では供給曲線が垂直になっており、また、右図では需要曲線が垂直になっている。需要曲線がシフトする場合の売り手の収入の変化に関する記述の正誤の組み合わせとして、最も適切なものを下記の解答群から選べ。
曲線が垂直な場合では、一般的な形状をしている時と価格の変化についての結論は同じですが、変化率が異なったりします。
このように、どのような形状の曲線が出題されたときも、簡易的なグラフを書いてみることで、例外的な価格変化についても判断ができるようになります。
この問題については以下で解答解説をまとめています。
過去問と解説
最後に、需要曲線・供給曲線のシフトに関する過去問と解説をご紹介します。
令和3年度 経済学 第14問
左図では供給曲線が垂直になっており、また、右図では需要曲線が垂直になっている。需要曲線がシフトする場合の売り手の収入の変化に関する記述の正誤の組み合わせとして、最も適切なものを下記の解答群から選べ。【引用】中小企業診断士試験問題 (j-smeca.jp)
a 左図では、需要曲線が右方にシフトするとき、売り手の収入は減少する。
b 右図では、需要曲線が右方にシフトするとき、売り手の収入は増加する。
c 需要曲線が左方にシフトするとき、両方の図で、売り手の収入は減少する。
〔解答群〕
ア a:正 b:正 c:誤
イ a:正 b:誤 c:誤
ウ a:誤 b:正 c:正
エ a:誤 b:正 c:誤
オ a:誤 b:誤 c:正
↓答えを決めてからスクロールして解答をチェック!↓
解答解説
左図では、需要曲線が右方にシフトするとき、売り手の収入は減少する。
➤➤まず前提として、「売り手の収入は減少する」とは、生産者が同じ供給量を販売したときに、その価格が低下した場合であることを指しています。
赤い点線が変化前の需要曲線、赤い実線が右シフト後の需要曲線です。
供給曲線は垂直であるため、生産者は常に同じ量を生産することになります。
そして、需要曲線が右シフトすることで、両者の交点は供給曲線上を真上に移動しています。
これにより、生産者にとっては、同じ供給量にも関わらず価格が上昇したことにより、より多くの収入を得ることができています。
売り手の収入は増加しているため、この選択肢の記述は適切ではありません。
右図では、需要曲線が右方にシフトするとき、売り手の収入は増加する。
➤➤右図では、需要曲線が垂直な形状になっています。
垂直な需要曲線が真横に右シフトすることで、供給曲線との交点は右上に移動しています。
これにより、取引量が増加すると同時に、その取引価格も上昇していることが分かります。
この状況では、生産者はより高い価格で多くの取引を行えているため、収入が増加しているはずです。
よって、需要曲線の右シフトによって生産者の収入が増加するため記述は正しいと言えます。
需要曲線が左方にシフトするとき、両方の図で、売り手の収入は減少する。
➤➤まずは、左図(供給曲線が垂直)なパターンを見てみましょう。
先ほど解説した「a」と真逆の状況になっています。
需要曲線が左シフトすることで、垂直な供給曲線上との交点が真下に移動しています。
これにより、生産者にとっては、同じ生産量にも関わらず価格が低下しているため、その分の収入が減少していることになります。
次に、右図(需要曲線が垂直)なパターンです。
こちらは、先ほど解説した「b」と真逆の状況になっています。
垂直な需要曲線が左シフトすることで、供給曲線との交点が左下に移動しています。
これにより、生産者にとっては、取引価格が下落した上に取引量まで少なくなってしまい、収入が減少していることになります。
よって、両図において需要曲線が左シフトしたことで生産者の収入が減少しており、選択肢の記述は正しいです。
よって、「a:誤」「b:正」「c:正」の組み合わせである「ウ」が正解です。
まとめ
当記事を最後までお読みいただき、ありがとうございます。
今回は、中小企業診断士の経済学・経済政策にで出題される「需要曲線・供給曲線のシフト」について、基本的な考え方から解法のポイントなど、試験攻略のポイントを解説しました。
記事の中でもお話ししました通り、需要曲線・供給曲線のシフトは、経済学・経済学で毎年のように出題されている重要論点です。
また、曲線が意味するものや動き方など、基本的な考え方を理解できれば、得点源にすることのできる分野です。
この記事を参考にしていただき、経済学・経済政策の得意分野として活用していただければ幸いです。
他にも中小企業診断士試験を最短で合格するために役立つ記事を発信していますので、ぜひチェックしてみてください。
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