中小企業診断士試験の一次試験の科目である経営情報システムでは、「障害対策」に関連する内容が出題されます。
情報通信技術やシステムに障害が発生すれば、システムの復旧に時間やコストがかかることに加え、大切なデータを失ってしまうなど、様々なリスクが生じる可能性があり、これらを防ぐために「障害対策」は欠かせません。
しかし、中小企業診断士試験で出題される障害対策に関する用語は、その名称・機能が似ていることもあり、整理した上で得点に繋げるまで時間が必要になる厄介な分野であることも事実です。
この記事では、経営情報システムに頻出の「障害対策」に関する用語について、それぞれの用語の定義・特徴を解説した上で、ややこしい用語を完璧に暗記できるように整理・解説します。
中小企業診断士・経営情報システムを攻略する上で「障害対策」は、深い知識を身に付けていなくとも、それぞれの用語の名称。機能を整理できていれば正誤の判断ができます。
用語を整理して試験で判断できること焦点を当てて解説していますので、この記事を読めば、何度覚えても頭に定着しない用語たちを整理して、本番で安定して正誤の判断ができるようになるはずです。
- 「障害対策」に関する8つの用語の定義・特徴
- ややこしい用語を暗記・整理するコツ
- 「障害対策」に関する過去問と解説
「障害対策」に関する8つの用語
まずはじめに、障害対策で登場する「8つの用語」について、その全体像を見てみましょう。
- フォールトトレランス(Fault Tolerance)
- フェイルソフト(Fail Soft)
- フェイルセーフ(Fail Safe)
- フォールトアボイダンス(Fault Avoidance)
- フールプルーフ(Fool Proof)
- フェイルオーバ(Fail Over)
- フェイルバック(Fail Back)
- フォールバック(Fall Back)
改めて8つを並べてみると、すべてが名称も発音も似ていてややこしいですね。
しかし、中小企業診断士試験・経営情報システムでは、これらの用語の名称と、それぞれが意味する内容を整理できていれば正誤の判断・得点できる問題「ほとんどです。
まずは難しいことを考えずに「用語の名称と意味を整理する」ことに焦点を当てましょう。
また、これらの用語をただ暗記するのではなく、特徴に応じてグループ分けして覚えると頭に入ってきやすいです。
この記事では、これら8つの用語を、「システム設計に関する用語」(5つ)と「実際の機能に関する用語」(3つ)の2種類に分類したうえで、それぞれの用語について解説していきます。
システム設計に関する用語
ますは、「システム設計に関する用語」に分類される5つの用語について解説します。
フォールトトレランス
「フォールトトレランス(Fault Tolerance)」とは、障害が発生した場合にも運転を継続できるシステムの構築を目指す設計概念です。
「トレランス:Torerance」とは、直訳すると「許容範囲」という意味です。システムを運用する上で障害は必ず発生することを前提に、その障害による被害を許容範囲内に抑える設計を目指します。
フォールトトレランスはあくまで「設計概念」ですので、実際にシステムを設計する方法ではなく、設計を進めるうえでの基本的な考え方を指す用語です。
フォールトトレランスは「障害はいつか発生するだろうから、発生する前にいろいろ備えておこう!」という考え方と言えますね。
そして、この概念・考え方を形にするのが「フェイルソフト」と「フェイルセーフ」です。
フェイルソフト
「フェイルソフト(Fail Soft)」は、障害が発生したときに、機能を低下させてでもシステムの全面停止を避ける「継続優先」の設計概念・手法です。
フォールトトレランスの「障害発生時に備える」という考え方の中でも、フェイルソフトは「障害が発生しても機能が維持できるように備える」ものです。
そのためフェイルソフトは、航空機の操縦装置や銀行のATMなど、障害が発生しても何とかして機能を継続させることが重要になるシステムに適用されます。
そして、中小企業診断士試験でもキーワードとなる、フェイルソフトの最大の特徴は「機能を低下させてでも継続を優先する」という点です。
とにかく機能が全面停止してしまうことを避けることに重点を置き、継続のためなら機能が低下してもいいと考えます。
フェイルソフトは「ちょっとショボくなっても、完全に停止するよりマシ!」という考え方です。
フェイルセーフ
「フェイルセーフ(Fail Safe)」は、システムに障害が発生したときに、障害による被害が拡大しないように制御する「安全優先」の設計概念・手法です。
フォールトトレランスの「障害発生時に備える」という考え方の中でも、フェイルソフトは、「障害が発生した時に安全を担保できるように備える」ものです。
「安全優先」のフェイルセーフは、列車の運行システムや石油ストーブの安全装置など、小さな障害でも致命的な影響を与える可能性のあるシステムに適用されます。
フェイルセーフは「何よりも安全を確保することが大事!」という考え方です。
ここまでの3つはグループとして覚えてしまいましょう。
フォールトトレランスの「発生する障害に備えておく」という設計概念に基づいて、システムの継続を重視するならフェイルソフト、安全を重視するならフェイルセーフの考え方・手法でシステムを設計します。
フォールトアボイダンス
「フォールトアボイダンス(Fault Avoidance)」は、システム構成要素の信頼性を高めることで、障害の発生自体を防ぐことを目指す設計概念です。
フォールトアボイダンスは、上述したフォールトトレランスと対になる「設計概念」です。
障害は避けられないと考えるフォールトトレランスに対し、フォールトアボイダンスは、システムの信頼性を未然に高めておけば障害は回避できると考えます。
具体的には、作業者のスキル向上や品質管理体制の整備などを行うことでシステムの信頼性を高め、障害を回避することを目指します。
しかし、自然災害や感染症など、いくら信頼性を高めていても避けられない事態は想定されるため、フォールトトレランスとフォールトアボイダンスは併用されることが多いです。
フォールトアボイダンスは「システムの信頼性を高めて障害は発生させない!」という考え方です。
フールプルーフ
「フールプルーフ(Fool Proof)」は、人為的なミスを未然に防いだり、ミスが発生してもカバーできるようにシステムを設計することです。
フールプルーフは直訳すると、「愚か者(Fool)」に「耐える(Proof)」となり、「知識が無くても簡単に扱える」ことを意味します。
これまで説明した設計概念は、予知できないあらゆる障害からシステムを守ったり、安全性を担保するために検討されていました。一方、フールプルーフは「人為的なミス」に特化して対策を講じる点が特徴です。
例えば、電子レンジは扉が完全にしまっていなければ加熱が始まらないように設定されています。扉が開いたまま加熱を始めると引火して重大な被害を引き起こす可能性があるため、扉を閉めなければ機能しないようにすることで人為的なミスを未然に防いでいるわけです。
フールプルーフは「人間はミスするもの!人為的ミスは未然に防ごう」という考え方です。
「システム設計に関する用語」をまとめると、以下のようになります。
フォールトトレランスは「発生する障害への対策」、フォールトアボイダンスは「障害自体の回避」、フールプルーフは「人為的ミスの回避」と、それぞれの違いに注目して覚えてしまいましょう。
- フォールトトレランス:避けられない障害による被害を許容範囲内に収めるよう設計する
- フェイルソフト:障害時には、機能を低下させてでも継続することを優先する
- フェイルセーフ:障害時には、何よりも安全の担保を優先する
- フォールトアボイダンス:システムの信頼性を高めて、障害を未然に防ぐ
- フールプルーフ:人為的なミスを防いだり、ミスをカバーできるような設計をする
実際の機能に関する用語
次に、「実際の機能に関する用語」に分類される3つの用語について解説します。
フェイルオーバ
「フェイルオーバ(Fail Over)」とは、システムに障害が発生した際に、待機系システムに処理を引き継ぐことで処理を継続する機能のことです。
信頼性の高いシステムでは、普段からシステムを機能させている「主系」と、いつでも入れ替われるようにスタンバイしている予備である「待機系」の二段階で構成されています。
このとき、障害が発生して主系の機能が停止したときに、自動的に待機系に入れ替わる機能がフェイルオーバです。
フェイルオーバにより、もし主系が機能停止しても待機系を用いて処理を継続することができるため、機能の完全停止を自動的に防ぐことができます。
フェイルバック
「フェイルバック(Fail Back)」は、フェイルオーバで切り替えられたシステムを、主系が機能している元の状態に戻す機能です。
フェイルオーバで切り替えられた待機系のシステムは、あくまで予備のシステムです。
そのため、システムの障害が回復したら主系が機能していた元の状態に戻す必要があり、これをフェイルバックと呼びます。
フェイルオーバとフェイルバックの関係を図示するとこんな感じです。
フェイルオーバとフェイルバックはセットで覚えましょう。
フォールバック
「フォールバック(Fall Back)」とは、システムの一部に障害が発生したときに、そのシステムを切り離したり負荷を減らすことで運用を継続する機能のことです。
システムの一部に障害が発生した場合に、システム全体の機能を停止させてしまえば、正常に機能するシステムは使えるのに使っていない状態となってしまいます。
そこで、フォールバックが機能することで、障害が発生した一部のシステムを切り離し、残りのシステムだけで運用を継続できるようになります。
もちろん、システムの一部を切り離す分の機能は低下するため、「機能が継続できるシステムを設計する」ことを目指すフェイルソフトを具現化する機能と言えます。
また、フォールバックには、人の判断によって行われる「手動フォールバック」と、監視システムが自動的に制御を行う「自動フォールバック」があります。全自動で行われるシステムではないことも押さえておきましょう。
「実際の機能に関する用語」をまとめると、以下のようになります。
フェイルオーバとフェイルバックで、「主系と待機系の切り替え」を、フォールバックで「障害が生じた一部のシステムの切り離し・運用」を行っています。
- フェイルオーバ:障害が発生したときに待機系システムに切り替えて処理を継続する機能
- フェイルバック:フェイルバックによる切り替え状態から、主系が機能する元の状態に戻す機能
- フォールバック:障害が発生したときにその部分を切り離し、機能低下しても処理を継続する機能
8つの用語を暗記・整理するコツ
ここまで、それぞれの用語の意味を解説してきました。
しかし、やはり名称・意味も似ていてややこしいですので、用語の覚え方のコツを紹介します。
図でイメージして覚える
8つの用語を1つずつ覚えるのではなく、特徴に応じてグループ化した図を用いることで頭に定着しやすくなります。
設計概念である5つと、それを具現化する3つに分類します。
まず、障害は発生するものと考える「フォールトトレランス」と、障害は回避できると考える「フォールトアボイダンス」に分けます。そして、フォールトトレランスの概念の中でも、継続優先の「フェイルソフト」と安全優先の「フェイルセーフ」に分けます。最後に、人為的ミスは「フールプルーフ」で回避します。
主系と待機系の切り替えによる処理の継続は「フェイルオーバ」と「フェイルバック」で行います。また、障害が発生したシステムを切り離すことによる処理の継続は「フォールバック」が行います。
英語の意味で覚える
日本語のカタカナで覚えるよりも、用語を構成する英単語の意味を用いることで覚えやすくなります。
- フォールトトレランス(Fault Tolerance)→「Fault(故障)」を「Tolerance(許容範囲)」に抑える
- フェイルソフト(Fail Soft)→「Fail(失敗)」を「Soft(やわらかい・穏やか)にして継続させる
- フェイルセーフ(Fail Safe)→「Fail(失敗)」しても「Safe(安全)」を優先する
- フォールトアボイダンス(Fault Avoidance)→「Fault(故障)」を「Avoidance(回避)」する
- フールプルーフ(Fool Proof)→「Fool(愚か者)」でも「Proof(耐える)」人為的ミスのないシステム
- フェイルオーバ(Fail Over)→「Fail(失敗)」しても処理を待機系に「Over(副詞で渡す)」
- フェイルバック(Fail Back)→「Fail(失敗)」した状態を「 Back(戻す)」
- フォールバック(Fall Back)→障害が発生しても機能を「Fall(落とし)」ても機能状態に「Back(戻す)」
このように、ご自身で英単語の意味を用いた文章を考えてみるといいかもしれません。
語呂合わせなどで覚えるときは、自分で語呂や文章を作ることで記憶に定着しやすくなります。
過去問と解説
最後に、障害対策の用語について出題された過去問・解説をご紹介します。
令和3年度 第20問
近年、情報システムの信頼性確保がますます重要になってきている。情報システムの信頼性確保に関する記述として、最も適切なものはどれか。【引用】中小企業診断士試験問題 (j-smeca.jp)
ア:サイト・リライアビリティ・エンジニアリング(SRE)とは、Webサイトの信頼性を向上させるようにゼロから見直して設計し直すことである。
イ:フェイルセーフとは、ユーザが誤った操作をしても危険が生じず、システムに異常が起こらないように設計することである。
ウ:フェイルソフトとは、故障や障害が発生したときに、待機系システムに処理を引き継いで、処理を続行するように設計することである。
エ:フォールトトレランスとは、一部の機能に故障や障害が発生しても、システムを正常に稼働し続けるように設計することである。
オ:フォールトマスキングとは、故障や障害が発生したときに、一部の機能を低下させても、残りの部分で稼働し続けるように設計することである。
↓答えを決めてからスクロールして解答をチェック!↓
解答解説
ア:適切ではない
サイト・リライアビリティ・エンジニアリング(SRE)とは、Webサイトの信頼性を向上させるようにゼロから見直して設計し直すことである。
➤➤「サイト・リライアビリティ・エンジニアリング(SRE)」とは、WebサイトやWebサービスの信頼性を高める取り組みを積極的に行い、価値向上を進める考え方のことであり、Googleが提唱しています。そして、この「サイト・リライアビリティ・エンジニアリング」の考え方には、「ゼロから見直して設計し直すこと」は含まれていません。
イ:適切ではない
フェイルセーフとは、ユーザが誤った操作をしても危険が生じず、システムに異常が起こらないように設計することである。
➤➤この文章は「フールプルーフ」の説明になっています。フェイルセーフとは、障害が発生したときにその被害が拡大しないように制御する、安全優先のシステム設計の考え方です。
ウ:適切ではない
フェイルソフトとは、故障や障害が発生したときに、待機系システムに処理を引き継いで、処理を続行するように設計することである。
➤➤この文章は、「フェイルオーバ」の説明になっています。フェイルソフトとは、障害が発生した場合に機能を低下させても全面停止を避ける継続優先のシステム設計の考え方です。「待機系システムに引き継いで」という文言でフォールバックと結びつけられるように押さえておきましょう。
エ:適切である
フォールトトレランスとは、一部の機能に故障や障害が発生しても、システムを正常に稼働し続けるように設計することである。
➤➤フォールトトレランスの説明になっているため正解です。
オ:適切ではない
フォールトマスキングとは、故障や障害が発生したときに、一部の機能を低下させても、残りの部分で稼働し続けるように設計することである。
➤➤この文章は、「フェイルソフト」の説明になっています。フォールトマスキングとは、システムに障害が発生したときに、外部からはその障害が分からないように隠蔽し、稼働を継続しつつ障害復旧も行うことです。
まとめ
当記事を最後までお読みいただき、ありがとうございます。
今回は、中小企業診断士・一次試験の経営情報システムで頻出の「障害対策」の8つの用語について、それぞれの特徴と、暗記・整理のコツを解説しました。
記事の中でもお話ししました通り、障害対策の8つの用語は、そこまで深い知識が無くとも、名称・意味がしっかりと整理できていれば、正誤の判断ができる問題がほとんどです。
この記事を参考にしていただきながら、とにかく用語を整理することに焦点を当てて学習を進めることで、安定した得点に結びつくはずです。
この記事が、皆様が学習を進める中で、少しでも参考になれば幸いです。
他にも、中小企業診断士試験を最短で合格するために役立つ記事を発信していますので、是非チェックしてみてください!
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