「中小企業診断士」は、日本で唯一の経営コンサルティングに関する国家資格です。
中小企業診断士は、経営に関する幅広い知識を体系的に学ぶことができることに加え、国家資格であるため客観的な信頼性も高いため、年齢・職種問わず取得する価値の高い資格のひとつです。
しかし近年、中小企業診断士を目指す受験者が急増しており、ますます合格が難しくなっていることも事実です。
この記事では、中小企業診断士試験について、受験者数・合格率の推移から人気の理由を考察・解説します。
今まさに学習を進めている方にとっては、改めて試験の難易度・合格率の推移を知り、確実に合格するために必要な準備・計画を見直すきっかけとなるはずです。
また、これから受験勉強を始めるか迷っている方も、人気の理由・魅力と難易度を知り、いざ受験をするのかを決める判断材料となります。
中小企業診断士に少しでも興味があれば、ぜひ読んでみてください。
- 中小企業診断士試験の受験者数・合格率の推移
- 中小企業診断士が人気になっている理由
- 試験を受けてみて感じた合格の難しさ
「中小企業診断士」とは
まず前提として、「中小企業診断士」の概要を解説します。
中小企業診断士とは、日本で唯一の経営コンサルティングに関する国家資格です。
中小企業診断士は、中小企業の経営課題に対応するための診断・助言を行う専門家です。法律上の国家資格として、「中小企業支援法」第11条に基づき、経済産業大臣が登録します。
中小企業診断協会ってなに? (j-smeca.jp)
中小企業診断士試験では、経営戦略やマーケティング・財務などに加えて、法律やIT技術など、経営に関するあらゆる知識を学習します。
学習することが多いからこそ学習に多くの時間・労力が必要になりますが、経営に関する知識を体系的に学習できる資格は他にありません。
また、中小企業診断士資格を取得した方々は、経営コンサルタントとしての知識やスキルはもちろん、自身の得意な領域を生かして中小企業や小規模事業者のあらゆる課題解決をサポートしています。
中小企業診断士は、名前の通り中小企業を診断し助言する経営のプロであり、「日本版MBA」と呼ばれています。
中小企業診断士の受験者数・合格率の推移
中小企業診断士は国家資格ということもあり、合格するのは簡単ではありません。
ここでは、中小企業診断士の受験者数と合格率の推移について解説します。
一次試験の受験者数・合格率
まずは、一次試験の受験者数を見てみましょう。
中小企業診断士の受験者数は、2006年の13,638人から2023年には21,713人となり、この17年間で約8,000人(約1.6倍)増加し、年々受験者数が増加しています。
中小企業診断士試験 申込者数・合格率等の推移 suii_moushikomisha.pdf (j-smeca.jp)を元に作成
2020年に一度落ち込んでいますが、それ以降は年々右肩上がりで受験者が増加しており、しばらくはこの傾向が続きそうです。
では、一次試験の受験者数が増加することで、難易度・合格率はどう変わるのかを見ていきます。
以下のグラフの通り、一次試験の合格率は高まりつつあることが分かります。
平均すると約30%ほどの合格率になっていますが、2020年には42.5%になっていたりと、年によって合格率にばらつきがあります。
中小企業診断士試験 申込者数・合格率等の推移 suii_moushikomisha.pdf (j-smeca.jp)を元に作成
中小企業診断士の一次試験は「絶対評価」ですので、受験者が多くなっても合格点さえ取れれば合格できます。
そのため、その年の問題の難易度によって合格率が変化していると考えられます。
とはいえ、受験者数が多くなれば、合格者数を調整するために問題を難しくしたり、過去の傾向とは異なる出題がされたりと、結果として合格が難しくなる可能性があることに注意しておきましょう。
私自身も2023年度に受験していますが、全体的に難化傾向であり、特に「経営情報システム」が本当に難しすぎて焦ったのを覚えています。
二次試験の受験者数・合格率
次に、二次試験について見ていきましょう。
中小企業診断士の二次試験は、一次試験の合格者が受ける試験です。そのため、一次試験の受験者数が増え、合格率も高まりつつあることで、二次試験の受験者数も増加しています。
一次試験の受験者数は1.6倍になっていましたが、二次試験は2倍以上に増えています。
中小企業診断士試験 申込者数・合格率等の推移 suii_moushikomisha.pdf (j-smeca.jp)を元に作成
そして、二次試験は受験者数が増えている一方で、合格率はほぼ横ばいで推移しています。
中小企業診断士試験 申込者数・合格率等の推移 suii_moushikomisha.pdf (j-smeca.jp)を元に作成
受験者数が増えることで難しくなっている最大の要因は、この二次試験にあります。
中小企業診断士の二次試験は「相対評価」になっており、受験者全体の中で解答の評価が高かった上位20%程が合格できる試験になっています。
この評価方法により、総受験者数が増加することで合格者の人数も増えるはずですが、ライバルは一次試験を突破した猛者たちであり、さらに何年も二次試験を受けている方々だっているでしょう。
二次試験の受験者数が増えることで、優秀なライバルの中で相対的に良い評価・点数を得ることが難しくなり、結果として二次試験の合格が難しくなっていると言えるでしょう。
一次試験は絶対評価ですので、合格点さえとれば受かります。しかし、二次試験は相対評価であり、模範解答も公開されないため、独学で良い評価を得るのが非常に難しい試験になっています。
他の国家資格との比較
中小企業診断士資格は、一次試験の合格率が30%・二次試験の合格率が20%ですので、ストレートでの合格率は6%程度であり、約1,000時間くらいの勉強時間が必要になると言われています。
他の国家資格の受験者数と合格率と比較して、中小企業診断士試験の難易度を考えてみます。
社会保険労務士
社会保険労務士は、組織の「ヒト」に関するプロフェッショナルです。
社会保険労務士も、中小企業診断士と同じく1,000時間ほどの勉強時間が必要と言われています。
合格率は毎年5%~8%くらいであり、実務経験などの受験資格も必要になります。
年 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
---|---|---|---|
2023 | 42,741人 | 2,720人 | 6.36% |
2022 | 40,633人 | 2,134人 | 5.25% |
2021 | 37,306人 | 2,937人 | 7.87% |
2020 | 34,845人 | 2,237人 | 6.42% |
2019 | 38,428人 | 2,525人 | 6.57% |
中小企業診断士と同じくらいの難易度と言われることが多いのが社会保険労務士です。中小企業診断士は幅広く網羅的に経営を学習しますが、社労士は「ヒト」に関する専門的な知識を学ぶため毛色は異なります。
行政書士
行政書士は、「法律」のプロフェッショナルであり、官公署に提出する許認可などの書類作成・手続きの代行などを業務とする国家資格です。
行政書士は、500時間から800時間ほどの勉強時間が必要とされ、合格率は毎年10%前後を推移しています。
中小企業診断士より難易度は低そうに見えますが、法律をとにかく暗記する根気が必要となり、暗記が苦手な方にはより難しい試験になるかもしれません。
年 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
---|---|---|---|
2023 | 46,991人 | 6,571人 | 13.98% |
2022 | 47,850人 | 5,802人 | 12.13% |
2021 | 47,870人 | 5,353人 | 11.18% |
2020 | 41,681人 | 4,470人 | 10.7 % |
2019 | 39,821人 | 4,571人 | 11.5 % |
司法書士
司法書士は、行政書士と同じく「法律」のプロフェッショナルですが、不動産登記や商業登記、訴訟代理など、業務内容が異なっています。
司法書士試験は最低でも3,000時間ほどの勉強時間が必要と言われています。
また、合格率も5%前後を推移している超難関資格です。
年 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
---|---|---|---|
2023 | 13,372人 | 695人 | 5.19% |
2022 | 12,727人 | 660人 | 5.18% |
2021 | 11,925人 | 613人 | 5.14% |
2020 | 11,494人 | 595人 | 5.17% |
2019 | 13,683人 | 601人 | 4.39% |
「士業」と呼ばれる国家資格はどれも難関です。中でも中小企業診断士は、司法書士などの最難関まではいかずとも非常に難しい試験という立ち位置でしょう。
中小企業診断士の人気が高まっている理由
ここからは、中小企業診断士試験の受験者が増加している、人気の理由を考察します。
キャリアの選択肢が多様化しているから
最近では、オンライン会議や在宅勤務が導入されたり、インフルエンサーやWebライターなどの仕事が主流になったりと、働き方・キャリアの選択肢が多様化しています。
実際に、若いうちからの独立開業・フリーランスとして活躍する方も増えています。
しかし、環境が変わり働き方が選びやすくなった一方で、特有のスキルや能力がないと差別化できない時代になりつつあることも事実です。
最近は就職先企業として「コンサル」が大人気ですが、この理由は業務を通じて若いうちから会社に依存しないスキルを身に着けて成長できるからだと考えられます。
このようなキャリアの多様化の中で、経営に関する知識を体系的に学べる国家資格である中小企業診断士は、将来の選択肢を広げるための手段として優れています。
資格自体が能力の証明になることはもちろん、「企業内診断士としてのキャリア」or「診断士としての独立」も目指していける選択肢が広がります。
このように、キャリアが多様化するなかで、幅広い知識を学べる中小企業診断士を取得して将来の選択肢を増やしたいと考える人が増えています。
「国家資格」に魅力を感じる人が増えているから
キャリアの多様化の中で知識やスキルを身に着けたいと考えた時に、資格や検定を持っていれば客観的にわかりやすい能力の証明になります。合格の難しい難関国家資格であればなおさらアピールになるでしょう。
特に中小企業診断士は、日本で唯一のコンサルティングに関する国家資格です。
学べる内容も幅広く様々な場面で生かせるものですし、能力の証明が難しいコンサルタントとしての基礎力をアピールできることも魅力的です。
このように、特定の会社・業界に依存しない知識やスキルを身に着けたいと考える人が増えると同時に、「国家資格」を取りたいと考える人が増えることが、中小企業診断士の受験者が増加している要因と言えるでしょう。
「中小企業診断士は独占業務が無いから稼げない」と言われることも多いです。しかし逆に考えれば、資格を生かしてどんな業務でもできると言えます。勉強が大変な分、多くの場面で役に立つ知識が身につくため、どんな世代の方でも取得する価値がある資格です。
学べる領域が幅広いから
せっかく自己研鑽をするならば、仕事やキャリアで生かせるものを頑張りたいですよね。本業でがっつり頑張りたいのか、副業や転職を考えているのかによって学習すべき内容も変わってきます。
そのような中で、中小企業診断士資格は、学べる領域が幅広く勉強した時間と労力が無駄になりにくいのが特徴です。
コンサルタントとして活動していなくても、マーケティングや財務などの経営に関する知識はどんな仕事をしていても使う場面が表れます。
また、多くの知識がベースに備わっていることで、ニュース記事の理解度やビジネス感度が高まります。
中小企業診断士の学習を通じて様々な場面で生かせる知識を身に着けられるからこそ、年齢やキャリアを問わず受ける人が増加しているんです。
資格試験はどうしても資格を取ることが目的になりがちで、特に国家資格は長期間勉強することになるためモチベーション管理が肝になります。そんな中、中小企業診断士は学習した内容が日々の仕事ですぐに生かせるため成長が実感しやすく勉強も継続しやすいです。
公的機関・政府の後押しを生かせるから
中小企業診断士は、政府がその必要性を重要視しており、商工会議所などの公的機関から仕事を請け負うことも多いです。
国家資格だからこその、公的機関や政府からの後押しを活用できることも人気の理由になっています。
以下のグラフは、診断士として活動する方々の売上構成比の中で、「民間業務」か「公的業務」のどちらの割合が高いかを聞いたアンケートです。
この結果、半数程度の方が公的業務に従事して売上を確保していることが分かります。
「中小企業診断士活動状況アンケート調査」結果についてkekka_r3.pdf (j-smeca.jp)を元に作成
公的業務は基本的に中小企業診断士資格を持っていなければ行うことができません。
そのため、中小企業診断士になったばかりでも比較的受注しやすく、公的業務をうまく活用できれば「資格を取って終わり」にならずに経験や実績を積むことができます。
実務経験や実績に乏しいと、なかなか民間業務を受注することはできません。公的業務で経験や積みながら徐々にスキルアップしていけるのはありがたいですよね。
また、政府の成長戦略会議においても、日本の生産性向上のために中小企業支援は必要不可欠であり、これを担う中小企業診断士の重要性についての議論がなされています。
6.中小企業診断士制度の在り方
2020年12月1日、成長戦略会議「実行計画」(中間とりまとめ)jikkoukeikaku_set.pdf (cas.go.jp)
中堅・中小企業の経営を担うことのできる人材の裾野を広げていくため、中小企業診断士制度の在り方やその活用促進について、検討を深め、年度末までに結論を得る。
このように、政府が必要性を認識している資格だからこそ、国が中小企業診断士の活躍を促すような施策に取り組む可能性もあるでしょう。国や公的機関の力を借りることができる国家資格ならではの強みも人気の理由です。
中小企業診断士は無理ゲーなのか
中小企業診断士試験は受験者が増加し、合格が難しくなっていることをお話ししました。
これから受験を考えている方が合格を勝ち取るのは可能なのか、自分なりの考えをお話しします。
結論「難しいけど無理ゲーではない」
もちろんストレート合格率6%程度の国家資格であり、受験者も増加している人気資格ですので、難しいのは当然です。
しかし、しっかりと計画を立てて努力をすれば一年で合格することも可能です。
一次試験に関しては、幅広い学習内容に対応するために、しっかりと勉強計画を立てた上でとにかくひたすら暗記と過去問を繰り返しましょう。
合計で6割以上を取れば合格ですので、得意科目などを生かして苦手科目に時間を割き過ぎないなど、戦略的に勉強すれば合格できます。
問題は二次試験ですが、独学が通用しにくいですが「ふぞろい」を活用して何度も解答を書きましょう。明確な答えが分かる事例Ⅳで点数を稼ぐ作戦も有効です。
個人的には、二次試験だけは通信講座や予備校を使うのも選択肢としてはありだと感じています。合格のポイントを学び、書いた解答も添削してもらえると合格可能性がかなり高まるでしょう。学費はかかってしまいますが、何が正解かわからない勉強をするのはかなりしんどかったので後悔しています…
2023年度に受けてみた感想
私自身は、2023年度の中小企業診断士試験を完全に独学で受験しています。
結果としては、一次試験は余裕(500点超え)で合格でしたが、二次試験はあと6点で落ちてしまいました。
やはり、一次試験は絶対評価のマークシートですので、自己採点して苦手なところを復習するなどの正攻法をひたすら繰り返せば合格できます。
しかし問題は二次試験で、答えが分からない筆記試験で安定して点を取ることは難しいです。
受験者が増えており、私のように二次で落ちてしまった人も増加しているため、二次試験の難易度はどんどん難しくなっていくでしょう。一次試験で高得点を狙わずに、早い段階から二次試験の対策に入ればよかったと後悔しています。
まとめ
当記事を最後までお読みいただき、ありがとうございます。
今回は、中小企業診断士の難易度・人気の上昇について、人気になっている理由や傾向についてをお話ししました。
記事の中でもお話しした通り、中小企業診断士試験は年々受験者が増加しているため、二次試験をはじめますます合格が難しい資格になっています。
しかし考え方を変えれば、難易度が上がれば上がるほど資格を持っていることの価値は高まります。
難しいからこそ取る価値があるのが資格です。受験を検討している方も恐れることなくガンガン挑戦してみてください!
他にも、中小企業診断士を最短で合格するために役立つ記事を発信しておりますので、お時間のある際にぜひチェックしてみてくださいね。
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